考えを否定せず敬意を払うことも大切

介護の現場において、高齢者の尊厳に配慮した介助作業を行うのは非常に困難なことといえます。主に、介護施設の現状と、介護を必要としている高齢者自身の考え方の二つが、問題の改善を困難にしている原因です。介護施設は、人材が慢性的に不足していることが根幹にあり、一人の介護士が複数の高齢者を担当しているという状況も珍しくありません。この人員配置も、高齢者の尊厳への配慮を疎かにしていると言えます。

介護士が一人で介助作業を行うことが多い状況から、着替えや入浴、排せつなどに時間がかかってしまい、裸や排せつの様子を第三者に見られてしまうことが問題となっています。さらに、高齢者への接し方も尊厳を軽視したものになっていることが多く、親子以上に年上の高齢者に対して赤ちゃん言葉を使うといった不適切な対処も多く見られるのが現状です。

高齢者自身の考え方では、介護士をはじめ他人の手を借りることに抵抗を感じていることが問題だといえます。しかし、高齢者の多くは若い頃に培われた価値観や常識に根付いた生活を営んできたので、要介護の状態になったからといって即座に考え方を変えるのは非常に難しいでしょう。さらに、加齢によって体の自由が利かなくなったことへのもどかしさも、不安や焦りに拍車をかけているのです。

そのような高齢者には、価値観や考え方を尊重しつつ、介助作業の必要性を説くのが適切な接し方です。その際は、決して赤ちゃん言葉を使うなど相手を下に見るような態度は取らず、自分より何年も長生きしている人生の先輩として敬意を払うように配慮することが、介護士として必要な心得なのです。